大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和23年(ネ)103号 判決

控訴人は、原判決を取消す、被控訴人の請求を棄却する、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とするとの判決を、被控訴人は、主文同旨の判決を求めた。

双方の事実上の陳述は、被控訴人において本訴の請求原因としては原判決摘示の予備的請求原因のみを主張した外原判決記載の事実と同一であるから、ここにこれを引用する。

<立証省略>

三、理  由

被控訴人と控訴人先代亡西村多三郎とが昭和十一年四月頃、共同して松浦化学研究所の商号の下に、麺類及び醤油の製造販売を営む目的で、被控訴人はその有する麺類及び醤油の製造上の技術を、右多三郎は金銭をそれぞれ出資することとし、利益分配は平等とする旨の組合契約を締結したが、その後昭和十四年五月八日右組合を合意上解散したこと、本件建物が右組合財産に属するものなること、右多三郎は昭和十五年二月二十六日死亡し、控訴人はこれが家督相続をしたこと、本件建物については被控訴人主張の各日時に右多三郎において自己に保存登記を次で控訴人において家督相続による所有権移転登記をなした上、訴外国光紡績株式会社に所有権移転登記をなし、さらに同会社より控訴人に所有権移転登記をなし、現に控訴人単独所有名義の登記のあることは当事者間に争のないところである。

そして原本の存在及びその成立に争のない、甲第四、五号証、乙第七号証に、原審証人其田栄二、奥村豊の証言、当審証人水上栄二の証言の一部、原審及び当審における被控訴本人尋問の結果の一部を綜合するときは、被控訴人の出資である技術を合意上一万円と評価し、控訴人先代多三郎は一万円の現金を出資することとして、前示組合契約を締結し、その後右多三郎の出資金の一部を以て、組合事業を営むために、右両人共同して本件建物を建設し、昭和十一年夏頃完成したものであるが、当時右組合を将来合資会社とし多三郎はこれが代表者となる予定であつたため、その前提の下に一応本件建物につき同人名義の保存登記をしたところ、その後両人間に種々紛争が生じ、前示の如く右組合を合意上解散するに至り、延いて右合資会社とする計画もこの時消滅したものなることを認定することができる。

乙第九、十号証、原審証人漢城献一、橋本慶治、原審及び当審証人西村こま(コマ)、当審証人大数益太郎、水上栄二の証言、原審及び当審における被控訴本人尋問の結果中右認定に反する部分は信用し得ないし、その他右認定を動かすに足る証拠はない。

して見ると本件において被控訴人と控訴人先代多三郎は組合加入の時期を等しくし且つ組合財産に対する持分の割合について特約もないのだから本件建物は右両人の持分の割合平等なる共有の組合財産であるが、たゞ前示の如き前提の下に、一応多三郎名義の保存登記がなされたものにすぎないのであるから、右前提のなくなつた以上、これが登記も右両人の本件建物について有する実体上の権利に副うように改められなければならなくなつたわけである。

しかして組合員が死亡するときは組合より脱退するのであるが、(民法第六百七十九条)この場合その相続人は、同法第六百八十一条に基く払戻を請求し得るに止り、当然に組合員となるものではなく脱退者の持分は残存組合員に当然帰属するものと解すべきである。これは組合が組合員相互の信頼に基いて共同事業を営むものであり、従つて又この共同事業の基礎となる組合財産に対する組合員の関係も種々の制約のある、特殊な共有ともいうべきものだからである。(民法第六百七十六条第六百七十八条参照)

しかしながら、この理は本件におけるように、組合員が組合の解散後死亡した場合にはそのまゝあてはめることはできない。なんとなれば、解散した組合は、本来の共同事業を営むことを目的とせず、たゞ清算の範囲内において存続するにすぎないから、組合員の組合財産に対する関係は、前示のような特殊な形態を脱して著しく通常の財産権に近似するわけである。

だから、この場合においては組合員の死亡により、少くとも組合財産そのものに対する関係は、そのまゝ相続人に移転するものと解するを相当とする。

そうすると控訴人は本件建物について、その先代多三郎と同じく二分の一の共有権を有するにすぎないのにかゝはらず登記簿上単独の所有者となつているのであるから、被控訴人は控訴人に対し本件建物が被控訴人控訴人の共有であることの確認及び右建物についてその二分の一の所有権の移転登記手続を求め得るものである。

控訴人は、被控訴人の出資は無価値であることが判明したから、この時以後被控訴人は組合財産に対して持分を有しないというけれども一旦合意上出資の評価を定めた以上、その真実の価値によつて直ちに出資の割合が変動すべき理由がない。さらに控訴人は本件建物は残余財産であり残余財産は出資の価格に応じて分割せらるべきものであるところ控訴人先代の出資は一万円であるに反し、被控訴人の出資は無価値であるから、控訴人は本件建物を全部取得することとなると抗争するが、本件において組合の清算が結了したことは、これを認め得ないところであるから、右建物が残余財産であることを前提とする控訴人の主張は採用する由がない。

然らば被控訴人の本訴請求は全部正当であるから、これを認容した原判決に対する本件控訴は理由がない。

よつて民事訴訟法第三百八十四条第九十五条第八十九条に従い主文のとおり判決する。

(裁判官 大野美稲 熊野啓五郎 福本一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!